エナミン(enamine)は、アルケンとアミンの構造的特徴を併せ持つ化合物であり、α-水素を持つカルボニル化合物と二級アミンの縮合により形成されます。
特に、カルボニル基の不斉アルキル化やアシル化を目的とした反応性中間体として、合成有機化学の中で非常に重要な位置を占めています。
本記事では、エナミンの構造・形成機構・化学反応・安定性・不斉合成や天然物合成への応用について、有機化学の視点から詳しく解説します。
Contents
エナミンの構造と命名法
基本構造
R₂C=CR–NR'₂
- 炭素–炭素二重結合(C=C)と、窒素原子が隣接
- 窒素には2つの置換基(R’₂)が結合(通常は二級アミン)
イミン(C=N)に類似しつつ、エナミンはより求核性が高く、安定性にも優れることが特徴です。
IUPAC命名法と慣用名
- 命名は「en-amine」=alkene + amineに由来
- 構造式と同時に用いられることが多く、体系名は複雑な場合に限られる
例
- CH₃–CH=CH–NR₂ → プロペンエナミン
- シクロヘキサノン + ピロリジン → シクロヘキサンエナミン(生成物名)
エナミンの生成と条件
反応式
カルボニル化合物 + 二級アミン ⇌ エナミン + H₂O
生成メカニズム
- アミンがカルボニル基に求核付加
- カルビノールアミン中間体の形成
- 脱水 → イミニウムイオン形成
- α-プロトン脱離 → エナミン生成
反応条件
- 酸性条件(p-TsOHなど)で進行
- 反応系から水を除去(分子ふるいやDean–Stark装置)
- 安定な二級アミンを使用(例:ピロリジン、モルホリン)
エナミンの性質と反応性
共鳴構造
R₂C=CR–NR'₂ ↔ R₂C⁻–CR=NR'₂⁺
- 窒素の孤立電子対が共鳴に寄与 → Cαの求核性が高まる
反応特性
- 求核性が高い: アルキル化・アシル化に適する
- 安定性: イミンより加水分解に対してやや安定
エナミンの主な反応
① アルキル化
エナミン + R–X → Cα–アルキル化 → 加水分解 → α-アルキルケトン
炭素–炭素結合を導入できる有力な方法。
② アシル化
エナミン + アシルハライド → Cα–アシル化 → 加水分解 → β-ジケトン
③ マイケル付加反応
- エナミンは電子不足アルケン(例:α,β-不飽和カルボニル)に求核付加可能
④ 還元反応(還元的アミノ化)
エナミン + H⁺ + 還元剤 → 飽和アミン
⑤ 環化反応
- エナミンの求核部位を利用した分子内環化
エナミンの加水分解
酸存在下で容易に元のカルボニル化合物とアミンへ戻る
R₂C=CR–NR'₂ + H₂O → R₂C=O + HNR'₂
不斉合成における応用
① L-プロリン触媒によるエナミン中間体
- 不斉アルドール反応(Hajos–Parrish反応)
- Mukaiyamaアルドール、マイケル反応など
② 天然物合成
- 多環性骨格の構築にエナミンの求核性を利用
③ オルガノ触媒化学
- 二級アミン系触媒による遷移状態制御
エナミンの代表例と合成実例
① シクロヘキサノン + ピロリジン → シクロヘキサンエナミン
- 代表的なモデル系。反応性が高く、加水分解も容易
② アセトフェノン誘導体 + モルホリン → 芳香族エナミン
- π共役系エナミン → 電子移動材料にも応用
エナミンの注意点と保存性
- 水分に弱いため、保存には乾燥・低温・不活性雰囲気が推奨
- 長期保存には安定な誘導体への変換が必要
まとめ:エナミンは求核反応の架け橋となる高機能官能基
- エナミン(enamine)は、カルボニル化合物と二級アミンから形成
- α-位が求核性を持ち、アルキル化・アシル化など多様な反応に活用
- 加水分解性を持ち、可逆的操作も可能
- 不斉合成、有機触媒、天然物合成において戦略的に利用される
次回は「ウレア(–NH–(C=O)–NH–)」をテーマに、構造・形成・水素結合・薬理学的応用などを解説します。
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