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Felkin-Anhモデルとは?有機化学における立体選択性の鍵を解説!

Felkin-Anhモデルは、有機化学において、カルボニル化合物の求核攻撃時にどの立体配置が優先的に形成されるかを予測するための理論モデルです。このモデルは、立体化学(立体選択性)の理解において重要であり、特にアルデヒドやケトンの反応において反応生成物の立体構造を予測する際に用いられます。

本記事では、Felkin-Anhモデルの概要、その背後にある理論、そして具体的な応用例について解説します。

Felkin-Anhモデルの概要

Felkin-Anhモデルは、カルボニル基(C=O)を持つ化合物に対して求核試薬が攻撃する際、生成物の立体化学を説明するモデルです。このモデルは以下を仮定します:

  1. カルボニル基の平面性:カルボニル炭素は三角形平面構造に近い形をしており、求核攻撃はこの平面に垂直な方向から進行します。
  2. 立体障害の最小化:反応中の遷移状態において、求核剤がカルボニル炭素に攻撃する際に、立体障害が最も小さい経路を選ぶ傾向があります。
  3. 電子的効果の考慮:電子を引き寄せる基(EWG: Electron Withdrawing Group)が立体選択性に影響を与えます。

Felkin-Anhモデルの基本構造

カルボニル炭素(C=O)に結合した3つの基(R, R’, L)が以下のように配置されると仮定します:

求核攻撃は、小さい基(S)がカルボニル炭素の反対側に位置する経路が選ばれやすいとされています。

理論背景

Felkin-Anhモデルは、以下の理論的要素を基に構築されています:

遷移状態の立体障害

遷移状態では、求核剤とカルボニル炭素の間の相互作用が最も重要です。最も立体的に邪魔にならない基(S)が求核剤と反対側に配置されることで、遷移状態が安定化します。

ポイント:

電子的効果

カルボニル基に隣接する電子吸引基(例:フッ素、シアノ基)がある場合、その電子効果が求核剤の攻撃方向に影響を与えます。これにより、Felkin-Anhモデルは、立体障害だけでなく電子的要因も考慮に入れています。

例:

Felkin-Anhモデルの拡張

Felkin-Anhモデルは、シンプルな立体障害モデルを超えた電子効果や構造効果を考慮することで発展してきました。

Cramモデルとの違い

Cramモデルでは大きな基(L)がカルボニル基と反対側に位置する経路が選択されると説明しますが、Felkin-Anhモデルでは、より電子的に有利な経路を考慮します。

具体的な応用例

アルデヒドの求核付加

フェニルアルデヒドに対して求核剤(例:グリニャール試薬)が攻撃する場合、Felkin-Anhモデルを用いることで、生成物の立体化学を予測できます。

例:

不斉合成

Felkin-Anhモデルは、不斉合成においても重要です。特に、キラル中心を持つ基質に求核剤を反応させる際に、どの立体異性体が生成されるかを予測するために使用されます。

応用例:

モデルの限界と補完

Felkin-Anhモデルは非常に有用ですが、すべての反応を完全に説明できるわけではありません。

限界

補完モデル

参考文献

Marc Cherest; Hugh Felkin; Nicole Prudent, “TORSIONAL STRAIN
ALUMINIUM INVOLVING PARTIAL HYDRIDE REDUCTION OF SOME SIMPLE OPEN-CHAIN KETONES”, Tetrahedron Lett., 1968, 18, 2199-2204.

まとめ

Felkin-Anhモデルは、有機化学における立体選択性を予測するための強力なツールです。立体障害と電子効果を組み合わせて考えることで、多くのカルボニル化合物の反応経路を説明できます。不斉合成や複雑な有機分子の設計においても、このモデルは非常に役立つ理論として知られています。