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質量分析の基礎

質量分析(Mass Spectrometry, MS)は、化合物をイオン化して質量対電荷比(m/z)を測定し、分子量や構造情報を得るための分析手法です。この手法は、試料の構造解析、混合物の成分特定、同位体比の測定などに広く利用されています。

この記事では、質量分析の基本原理、主要な構成要素、分析手法、応用例、利点と限界について解説します。

質量分析の基本原理

質量対電荷比(m/z)

質量分析では、化合物をイオン化し、生成したイオンの質量対電荷比(m/z)を測定します。ここで:

 

m/z=イオンの質量 (m)イオンの電荷 (z)m/z = \frac{\text{イオンの質量 (m)}}{\text{イオンの電荷 (z)}}

通常、zは+1であることが多いため、m/zはイオンの質量とほぼ等しい値となります。

質量分析の流れ

質量分析は、以下のステップで構成されます:

  1. イオン化
    試料を気相中でイオン化して荷電分子を生成。
  2. 質量分離
    イオンを質量対電荷比(m/z)に基づいて分離。
  3. 検出
    分離されたイオンを検出し、その強度を記録。

質量分析の主要構成要素

イオン化装置

試料をイオン化するための装置で、分析対象や目的に応じてさまざまな手法が用いられます。

質量分析計

イオン化された分子を質量対電荷比で分離する装置。以下の主要なタイプがあります:

  1. 四重極型質量分析計(Quadrupole Mass Analyzer)
    • 4本の金属棒に高周波電場をかけてイオンを分離。
    • シンプルで高速、低コスト。
  2. 飛行時間型質量分析計(Time-of-Flight, TOF)
    • イオンの飛行時間に基づいて質量を分離。
    • 高い質量分解能を持つ。
  3. 磁場型質量分析計
    • 磁場でイオンを曲げることで質量を分離。
    • 古典的な手法であり、構造解析にも利用。
  4. フーリエ変換型質量分析計(FT-MS)
    • イオンの振動周波数を測定して質量を計算。
    • 最高の質量分解能を持つ。

検出器

分離されたイオンを電気信号として検出します。代表的な検出器には以下があります:

質量分析のスペクトル解析

質量分析の結果は、質量スペクトルとして得られます。このスペクトルには以下の情報が含まれます:

  1. 分子イオンピーク(M⁺)
    試料分子そのものがイオン化したピーク。分子量の情報を提供。
  2. フラグメントイオンピーク
    分子の分解によって生じるイオンのピーク。分子構造の情報を示す。
  3. 同位体ピーク
    元素の同位体に由来するピーク。分子式の確認に利用。

質量分析の応用例

有機化学

生物学・医薬品

環境科学

材料科学

質量分析の利点と限界

利点

  1. 高感度
    微量試料でも正確な分析が可能。
  2. 多用途性
    有機化合物から生体分子、無機化合物まで幅広い試料を分析。
  3. 迅速性
    短時間で結果を得ることが可能。

限界

  1. 試料のイオン化
    非揮発性化合物や熱に不安定な化合物ではイオン化が難しい。
  2. 質量分解能の制限
    機器の性能によって、近い質量の化合物を分離できない場合がある。
  3. コスト
    高性能な機器は高額であり、運用コストも高い。

未来への展望

結論

質量分析は、化学、医薬品、生物学、環境科学などの分野で不可欠なツールです。高感度で多用途なこの手法は、分子量測定や構造解析、混合物の成分特定において圧倒的な性能を発揮します。今後の技術革新により、より幅広い応用や高精度な分析が実現することが期待されます。

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