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プロキラリティー

プロキラリティー(prochirality)は、分子がキラルではないが、特定の化学変化によってキラルセンターを形成する可能性を持つ状態を指します。つまり、ある立体化学的操作を経てキラルになる能力を持つ分子の性質です。プロキラル分子は、特定の部分が特異的に反応するとキラル性が生じる可能性があるため、立体選択的な反応やエナンチオ選択的な合成において重要な役割を果たします。

プロキラリティーの例

プロキラル中心

プロキラル中心とは、二つの同一の置換基を持つアキラル(非キラル)中心のことで、これらの置換基のうち一つが他のものに置き換わるとキラルセンターが生じるものです。

エタノール(CH₃CH₂OH)

メチル基(CH₃)と水素原子(H)がプロキラルな炭素に結合しているとします。この炭素はプロキラル中心です。もしメチル基が他の置換基に置き換わると、キラルセンターが生じます。

プロキラル面

プロキラル面とは、平面の分子が特定の面に立体選択的な反応をすることでキラルになることを指します。

カルボニル化合物

ケトン(R₂C=O)は平面状であり、プロキラル面を持ちます。このカルボニル炭素に対して特定の立体化学的攻撃が起こるとキラル性が生じます。

用語と定義

Re面(レ面)とSi面(シ面)

カルボニル基などの平面構造のプロキラル面において、面の表裏を立体化学的に区別するための用語です。IUPAC命名法に基づき、観測者がカルボニル炭素に向かってカルボニル酸素を手前に見たとき、Re面は時計回りに優先順位が高く、Si面は反時計回りに優先順位が高い配置を持つ面です。

Pro-RおよびPro-S

プロキラル中心において、もし一つの同一置換基がR-配置のキラルセンターを生じるように変化する場合、それをPro-Rと呼びます。同様に、S-配置のキラルセンターを生じるように変化する場合、それをPro-Sと呼びます。

プロキラリティーの実用例

プロキラリティーは、化学合成や生化学において非常に重要です。以下にその具体的な例をいくつか示します。

酵素反応

酵素はしばしばプロキラル分子をキラル分子に変換する能力を持っています。例えば、アルコールデヒドロゲナーゼはプロキラルアルコールをキラルなアルデヒドやケトンに変換します。

合成化学

プロキラル試薬を用いたエナンチオ選択的合成は、単一のエナンチオマーを得るための重要な手段です。例えば、二つのプロキラル水素を持つケトンに対して、キラル試薬を用いることで、特定のエナンチオマーを選択的に生成することができます。

医薬品の製造

多くの医薬品はキラル性が薬効に影響するため、プロキラル前駆体を用いてエナンチオ選択的に合成することが求められます。

まとめ

プロキラリティーは、キラルではないが特定の操作によりキラルになる可能性を持つ分子の性質です。プロキラル中心やプロキラル面を持つ分子は、化学反応を通じてキラルセンターを生成することができ、これは酵素反応や合成化学、医薬品の製造など多くの分野で重要な概念です。プロキラリティーを理解し活用することで、立体選択的な合成や分子の特性制御が可能になります。