ツヴァイフェルオレフィン化は、アルケニル金属試薬をボレート形成させて、ヨウ素処理の転位によって置換アルケンを得る。鈴木-宮浦カップリングと相補的な幾何異性体を与える。
概要
- アルケンの立体選択的合成のための強力な方法
- 遷移金属触媒を用いず、ホウ素酸ビニル錯体のヨウ素化によって行われる
- 空気中で安定なボロン酸エステルのカップリングが可能
ツヴァイフェルオレフィン化は、有機化学においてアルケンの選択的合成を行う強力な手法です。この反応は1967年にGeorge Zweifelらによって初めて報告されました。特に、アルケンの二重結合の立体化学(Z体またはE体)を高い制御下で選択できる点で重要です。また、この反応はパラジウムなどの遷移金属を必要とせず、比較的簡便な条件下で進行するため、経済的で環境に優しい手法としても注目されています。
ツヴァイフェルオレフィン化は、一般的にビニルボラン化合物をヨウ素と塩基の存在下で処理することで進行し、最終的にアルケンが生成されます。この過程では、遷移金属を必要とせず、反応は非常に高い立体選択性を持ちます。この特性により、他のオレフィネーション反応(たとえば鈴木-宮浦カップリング)に代わる有力な方法として位置づけられています。
歴史
1967年に初めて報告された。
反応機構
1. ビニルボランのヨウ素化
Zweifelオレフィネーションの最初の段階では、ビニルボラン化合物がヨウ素(I2)と水酸化ナトリウム(NaOH)の存在下で反応します。この段階で、ビニルボラン中のπ結合がヨウ素によって活性化され、次に水酸化ナトリウムが付加して、ヨウドニウム中間体が形成されます。このヨウドニウム中間体が、1,2-メタレート転位を経て生成物のアルケンを形成します。
ビニルボランの立体化学は、この1,2-メタレート転位によって保存されるため、反応は完全な立体特異性を持って進行します。例えば、E体のビニルボランからはZ体のアルケンが生成され、Z体のビニルボランからはE体のアルケンが得られます。この反応は、当初はZ-アルケンの選択的な合成に制限されていましたが、後の研究でE-アルケンの合成方法も開発されました。
2. ビニルボリニン酸エステルの活用
ビニルボランの使用には限界があり、反応で生成されるアルケンはZ体に限定されていました。しかし、Zweifelとその同僚は、ビニルボリニン酸エステルを使用することでこの制約を克服しました。ビニルボリニン酸エステルは、水酸化ナトリウムとヨウ素の反応条件下でE-アルケンを生成できるため、Zweifelオレフィネーションはより多様なアルケンの合成に適用可能になりました。
このアプローチでは、最初にジビニルボランを酸化してビニルボリニン酸エステルを生成し、次にヨウ素化することで選択的にアルケンを生成します。特に、対称的なジエンの合成において優れた成果を挙げています。
実験手順
SM (1.0 eq.) をdry THFに溶解し、ビニルマグネシウムブロミド (4.0 eq.) を滴加する。原料の消失を確認したのち、-78 ℃にてdry MeOHに溶解したI2 (4.0 eq.) を1.0 mL/minで滴加する。20分間攪拌したのち、NaOMe in MeOH (8.0 eq.) を1.0 mL/minで滴加する。30分間攪拌したのち、室温まで昇温してさらに2.5時間撹拌し、飽和Na2S2O3水溶液で反応を停止する。ジエチルエーテルと水で分液操作をおこない、硫酸マグネシウムで有機層を乾燥する。減圧下にて溶媒を留去したのち、フラッシュカラムクロマトグラフィーで精製する。
Christian P. Bold, et al., Org. Lett., 2022, 24, 51, 9398-9402.
実験のコツ
発展
1. 天然物合成への応用
Zweifelオレフィネーションは、多くの天然物合成において重要なステップとして利用されています。例えば、(–)-Stemaphyllineの全合成では、この反応が鍵反応として用いられ、ボロン酸エステルを用いた一連の合成操作で立体選択的にアルケンが導入されました。この合成では、ビニルリチウムとボロン酸エステルのカップリングによってアルケンが得られ、後続の環化メタセシス反応により天然物の構造を構築しています。
さらに、他の天然物合成の例としては、solanoeclepin AやデブロモハミゲランEなどがあり、これらの合成においてもZweifelオレフィネーションが用いられています。
2. 立体異性体の選択的合成
近年の進展として、立体異性体の選択的合成がさらに改良されました。特に、ZweifelオレフィネーションにおけるE/Z選択性を制御する手法が確立され、反応条件を調整することで望む立体異性体を高選択的に得ることが可能になっています。例えば、ボロン酸エステルの立体障害が増すにつれて、E-アルケンの生成が優先される傾向があり、この現象を利用して特定の立体化学を持つ化合物を効率的に合成できます。
また、最近の研究では、ヨウ素を用いる代わりにPhSeClを使用することで、Z選択性がより高まることが示されており、これにより、より立体制御された合成が可能となりました。
応用例
Christian P. Bold, et al., Org. Lett., 2022, 24, 51, 9398-9402.
参考文献
1) Roly J. Armstrong; Varinder K. Aggarwal, Synthesis, 2017, 49, 3323-3336.
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