今回は、早稲田大学先進理工学部 電気・情報生命工学科のB3に向けて、研究室を紹介する。
学科名に「電気」「情報」「生命」と3つ入っているとおり、この学科は先進理工学部で最も守備範囲が広い。電力系統から合成生物学、半導体から機械学習まで、22の研究室が並んでいる。
裏を返せば、同じ学科の中で進む道がまったく分かれるということでもある。研究室選びの重みが、他学科より大きい学科だと言ってよい。
この記事では全22研究室を5つの分野に整理し、それぞれが何をやっているのかを説明する。化学を学んできた人向けに、化学の知識が武器になる研究室にも触れた。
本記事の内容はあくまでも個人的な意見・感想であり、電気・情報生命工学科公式のものではない。教員構成・研究テーマは2026年9月時点の公式サイトに基づくが、配属の前には必ず最新の情報を確認してほしい。
研究室見学はできるだけ事前にアポを取ってください
電気・情報生命工学科の全体像
22研究室を、扱うものの性質で5つに分けると見通しがよくなる。
| 分野 | 研究室数 | 性格 |
|---|---|---|
| 生命科学・バイオ情報 | 7 | ウェット実験とドライ解析が混在 |
| 電気エネルギー・電力 | 5 | 社会インフラ直結。就職が非常に堅い |
| 半導体・光デバイス材料 | 5 | クリーンルームでの材料プロセス |
| 情報・機械学習・制御 | 4 | 完全ドライ。数学とコードが主戦場 |
| 社会システム | 1 | 環境評価・社会実装 |
生命科学・バイオ情報
学科名の「生命」を担う7研究室。生命医科学科とテーマが重なる部分もあるが、工学的なアプローチ(システムとして捉える・作って確かめる)の色が濃いのが特徴。
合成生物学研究室(木賀大介 教授)
生物を「読む」のではなく「設計して作る」研究室。遺伝子回路を人工的に組み立て、望む機能を持つ細胞を作る合成生物学は、生物学に工学の発想を持ち込んだ分野である。
有機化学でいう全合成が「複雑な分子を作りきる」なら、合成生物学は「生命システムを作りきる」試み。ものを作る面白さで研究室を選びたい人には刺さる。
| 指導教員 | 木賀大介 教授 |
|---|---|
| 研究分野 | 合成生物学・遺伝子回路設計 |
細胞分子ネットワーク研究室(岩崎秀雄 教授)
細胞内の分子ネットワーク、とりわけ生物時計(概日リズム)の仕組みを扱う研究室。シアノバクテリアのような単純な生物が、なぜ24時間周期を刻めるのかという問いは、分子レベルで美しい答えを持つ。
| 指導教員 | 岩崎秀雄 教授 |
|---|---|
| 研究分野 | 生物時計・細胞分子ネットワーク |
分子細胞生物学研究室(岡野俊行 教授)
分子・細胞レベルで生命現象を解析する研究室。光受容や生体リズムに関わるタンパク質の機能解析などを扱う。
| 指導教員 | 岡野俊行 教授 |
|---|---|
| 研究分野 | 分子細胞生物学・光受容 |
生命システム研究室(高松敦子 教授)
生命現象を非線形システムとして捉える研究室。パターン形成やリズム同期といった、数理と実験の両方から迫るテーマを扱う。物理・数学が好きな生物系の人に向く。
| 指導教員 | 高松敦子 教授 |
|---|---|
| 研究分野 | 生命システム・非線形動力学 |
分子生命進化学研究室(水内良 准教授)
生命の起源と進化を分子レベルで扱う研究室。試験管の中で自己複製する分子システムを使い、進化そのものを実験室で再現しようとする方向性は、化学と生物の境界にある。
| 指導教員 | 水内良 准教授 |
|---|---|
| 研究分野 | 分子進化・生命の起源 |
生物物理学研究室(坂内博子 教授)
分子の動きを1分子レベルで捉えるなど、物理の手法で生命を測る研究室。神経系の分子動態などを扱う。
| 指導教員 | 坂内博子 教授 |
|---|---|
| 研究分野 | 生物物理学・1分子計測 |
バイオインフォマティクス研究室(浜田道昭 教授)
配列データや構造データを計算で解析する研究室。完全なドライ系で、RNA解析や機械学習の応用が中心。実験はせず、コードを書く日常になる。
| 指導教員 | 浜田道昭 教授 |
|---|---|
| 研究分野 | バイオインフォマティクス・RNA解析 |
電気エネルギー・電力
社会インフラを支える分野。電力会社・重電メーカー・鉄道への就職が非常に堅いのがこのグループの特徴で、進路の安定性を重視するなら有力な選択肢になる。
蓄電デバイス研究室(大久保將史 教授)
化学系から進む人に最も勧めたい研究室。リチウムイオン電池をはじめとする蓄電デバイスの材料と反応を扱う。
電池は、酸化還元反応を電気として取り出す装置である。正極・負極の材料設計、イオンの拡散、界面での反応——中身は紛れもなく電気化学・固体化学で、無機化学や物理化学の知識がそのまま効く。
電池材料は日本の産業競争力に直結する領域でもあり、材料メーカー・電池メーカーへの出口も明確である。
研究室HPによれば、扱っているのはリチウムイオン電池だけではない。ナトリウムイオン電池・アクア電池・アニオン電池といった、既存の枠組みそのものを問い直すテーマが並んでいる。
| 指導教員 | 大久保將史 教授 |
|---|---|
| 研究分野 | 蓄電デバイス・電気化学・電池材料 |
| 研究テーマ例 | ナトリウムイオン電池・アクア電池・アニオン電池など、新原理の電池と材料の創出(研究室HP記載) |
| 連絡先 | m-okubo[at]waseda.jp |
先進電気エネルギーシステム研究室(林泰弘 教授)
スマートグリッドや再生可能エネルギーの大量導入など、電力システム全体の設計を扱う研究室。国のエネルギー政策とも接点を持つ規模の大きい研究。
| 指導教員 | 林泰弘 教授 |
|---|---|
| 研究分野 | 電力システム・スマートグリッド |
エネルギーネットワーク研究室(喜久里浩之 教授)
エネルギーの供給網をどう設計・運用するかを扱う研究室。電力の需給バランスや系統安定化がテーマになる。
| 指導教員 | 喜久里浩之 教授 |
|---|---|
| 研究分野 | エネルギーネットワーク・電力系統 |
電動モビリティシステム研究室(近藤圭一郎 教授)
鉄道車両や電気自動車といった電動モビリティの駆動システムを扱う研究室。鉄道業界との結びつきが強い。
| 指導教員 | 近藤圭一郎 教授 |
|---|---|
| 研究分野 | 電動モビリティ・パワーエレクトロニクス |
コンピュータ援用電磁工学研究室(若尾真治 教授)
電磁界の数値解析と最適設計を扱う研究室。モーターや電気機器の設計をシミュレーションで支える、計算主体の研究室である。
| 指導教員 | 若尾真治 教授 |
|---|---|
| 研究分野 | 数値電磁界解析・最適設計 |
半導体・光デバイス材料
材料化学・結晶成長・表面処理が中心になるグループ。化学系から進んでも違和感が少なく、実際に化学出身者が活躍しやすい領域である。クリーンルームでのプロセス作業が日常になる。
電子・光子材料学研究室(小林正和 教授)
電子や光を扱うための材料そのものを研究する研究室。結晶成長や物性評価が中心になる。
| 指導教員 | 小林正和 教授 |
|---|---|
| 研究分野 | 電子材料・光機能材料・結晶成長 |
化合物半導体研究室(西永慈郎 准教授)
シリコン以外の化合物半導体(GaAs、GaNなど)を扱う研究室。太陽電池やパワーデバイスへの応用があり、組成の制御が性能を決めるため、化学的な発想が効く。
| 指導教員 | 西永慈郎 准教授 |
|---|---|
| 研究分野 | 化合物半導体・薄膜成長・太陽電池 |
半導体工学研究室(牧本俊樹 教授)
半導体デバイスの物理と作製プロセスを扱う研究室。材料からデバイスまでを一貫して見る。
| 指導教員 | 牧本俊樹 教授 |
|---|---|
| 研究分野 | 半導体デバイス・結晶成長 |
光物性工学研究室(宗田孝之 教授)
材料の光学的な性質を調べ、デバイスに応用する研究室。分光測定が主要な手法になる。
| 指導教員 | 宗田孝之 教授 |
|---|---|
| 研究分野 | 光物性・分光・光デバイス |
分子センサデバイス研究室(柳谷隆彦 教授)
分子を検出するセンサデバイスを扱う研究室。圧電薄膜などを用いた高感度センサの開発が中心で、材料と分子認識の両方に関わる。
| 指導教員 | 柳谷隆彦 教授 |
|---|---|
| 研究分野 | センサデバイス・圧電薄膜・分子検出 |
情報・機械学習・制御
完全なドライ系。実験装置ではなく数学とコードが道具になる。化学系から進むにはギャップが大きいが、データサイエンス志向なら選択肢に入る。
情報学習システム研究室(村田昇 教授)
機械学習の理論と応用を扱う研究室。統計的学習理論が基盤にある。
| 指導教員 | 村田昇 教授 |
|---|---|
| 研究分野 | 機械学習・統計的学習理論 |
確率的情報処理研究室(井上真郷 教授)
確率モデルによる情報処理を扱う研究室。ベイズ的な枠組みでデータを扱う。
| 指導教員 | 井上真郷 教授 |
|---|---|
| 研究分野 | 確率的情報処理・ベイズ推論 |
システム制御研究室(和佐泰明 准教授)
制御理論とその応用を扱う研究室。マルチエージェントシステムなどが対象になる。
| 指導教員 | 和佐泰明 准教授 |
|---|---|
| 研究分野 | システム制御・最適化 |
アドバンス制御研究室(渡邊亮 准教授)
先進的な制御手法の研究と実装を行う研究室。
| 指導教員 | 渡邊亮 准教授 |
|---|---|
| 研究分野 | 制御工学・実装 |
社会システム
サステナブル社会システム研究室(天沢逸里 准教授)
持続可能な社会システムを、ライフサイクルアセスメント(LCA)などの手法で評価・設計する研究室。
化学プロセスや製品が、原料採取から廃棄までにどれだけ環境負荷を持つかを定量する仕事は、グリーンケミストリーの発想と地続きである。技術と社会をつなぐ側に回りたい人に向く。
| 指導教員 | 天沢逸里 准教授 |
|---|---|
| 研究分野 | LCA・環境評価・サステナビリティ |
研究室見学で必ず聞くべきこと
守備範囲が広い学科なので、分野をまたいで複数見学することを強く勧めたい。
この学科で特に効くのが「進路が分野で決まる」という点である。電力系に行けば電力会社・重電、半導体系ならデバイスメーカー、情報系ならIT——研究室選びがほぼ業界選びになる。修了生の進路実績は必ず確認したい。
情報提供のお願い
この記事の研究室情報は、学科および各研究室の公式サイトで確認できる範囲でまとめている。所在地・連絡先・研究テーマはそこから取れるが、B3が本当に知りたいこと——実際の在室時間、ゼミの負荷、研究室の雰囲気、修了生の進路——は、どの公式サイトにも書かれていない。
実際、電気・情報生命工学科の研究室でコアタイムを公開しているところはごくわずかだった。
そこでお願いがある。在籍中の方・修了された方で、差し支えない範囲で教えていただける方は、下記のフォームから送っていただけないだろうか。いただいた情報は研究室ごとに整理して、この記事に反映していく。後輩の研究室選びが、それだけ確かなものになる。
よくある質問
分野を選べば十分にやっていけます。蓄電デバイス研究室(大久保)は電気化学そのもの、半導体・光デバイス系は材料化学と結晶成長が中心なので、化学の素養が直接活きます。一方、情報・制御系は数学とプログラミングが前提になるため、ギャップは大きくなります。
生命医科学科が医療応用を出口に据えるのに対し、こちらは「システムとして理解する」「作って確かめる」という工学的アプローチが強めです。合成生物学や生命システムといったテーマは、この学科ならではの色になります。両学科を見比べるのが確実です。
電力・重電・鉄道といった社会インフラ系は、専門性がそのまま評価される領域です。ただし「強い」と言われる実績は研究室ごとに違うため、見学時に直近3年の進路を具体的に聞いてください。伝聞ではなく実データで確認するのが鉄則です。
守備範囲が広いことは、迷いやすさでもあり、選べる自由でもある。先に「どの業界に行きたいか」から逆算すると、この学科の研究室選びは一気に楽になる。

