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キャロライン・ベルトッツィ完全解説|生体直交化学で生きた細胞の糖鎖を可視化した化学者

生きた細胞のなかは、有機化学者にとって最悪の反応場である。水が55 mol/L あり、アミン・チオール・カルボン酸・アルコールが桁違いの濃度で共存し、温度は37 °C、pHは7.4から動かせない。ここで「狙った1種類の分子だけを、狙った相手とだけ結合させる」ことなど、常識的にはできない相談だった。

キャロライン・ベルトッツィ(Carolyn R. Bertozzi)は、その常識に正面から挑んだ。彼女が掲げたのは「生体直交(bioorthogonal)」という一語である。生体分子と直交する——つまり、細胞のどの官能基とも交わらず、互いだけを見つけて結びつく官能基のペアを設計する。そうすれば、細胞を壊さず、生きたまま、分子に目印を付けられる。

この記事では、彼女が選んだアジド(−N3という「生体に存在しない小さな官能基」がなぜ最適解だったのかを出発点に、シュタウディンガーライゲーションからひずみ促進アジド–アルキン環化付加(SPAAC)への進化を、反応機構のレベルでたどっていく。バイヤーの環ひずみ理論が100年以上の時を越えて創薬の現場に効いてくる話でもある。

この記事で学ぶこと
生体直交化学(bioorthogonal chemistry)とは何か——「クリックケミストリー」との違い
代謝的糖鎖工学:アジド糖を細胞に食べさせて、細胞表面に化学的な「取っ手」を生やす仕組み
シュタウディンガーライゲーションの機構——アザイリドをエステルで捕まえてアミドに変える設計
SPAAC(ひずみ促進アジド–アルキン環化付加):銅触媒を捨て、環ひずみを活性化エネルギーに変えた発想
・シクロオクチンの改良(DIFO・DIBAC・BCN)と逆電子要請型Diels–Alder(テトラジン–TCO)との速度比較
・糖鎖免疫チェックポイント・LYTACなど、生体直交化学が生んだ創薬への展開(2022年ノーベル化学賞)

生涯と略歴——物理学者の娘、ロックバンドのキーボード奏者から

キャロライン・ルース・ベルトッツィは1966年、アメリカ・マサチューセッツ州ボストンに生まれた。父はマサチューセッツ工科大学(MIT)の物理学者、姉は数学者という「理系一家」で育っている。ハーバード大学に入学した当初の志望は生物学だったが、有機化学の講義で反応機構を電子の動きで説明するやり方に魅せられて化学へ転じた。学生時代にはバンドでキーボードを弾いており、その一員に後にRage Against the Machineで知られるトム・モレロがいた——というエピソードはしばしば語られる逸話である。

1988年にハーバード大学を卒業(化学、最優等)、カリフォルニア大学バークレー校のマーク・ベドナースキー(Mark Bednarski)のもとで糖鎖化学を学び、1993年に博士号を取得。ここで糖(グリカン)の合成という、有機化学のなかでもとりわけ骨の折れる領域を身につけた。

転機は博士研究員時代である。彼女はあえて化学科ではなく、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の免疫学者スティーブン・ローゼンの研究室に飛び込み、細胞接着におけるセレクチンと糖鎖の役割を研究した。「合成できる化学者」が「細胞を見る生物学者」の問題意識を持ったこと——この越境が、のちの生体直交化学を生む。

1996年にバークレー校で独立、1999年にマッカーサー・フェロー(通称「天才賞」)を受賞。2015年にスタンフォード大学へ移り、以後同大学で研究を続けている。2022年、K・バリー・シャープレス、モーテン・メルダルとともにノーベル化学賞を受賞した。授賞理由は「クリックケミストリーと生体直交化学の開発に対して」である。

出来事
1966 米国マサチューセッツ州ボストンに生まれる(父はMITの物理学者)
1988 ハーバード大学を化学専攻で卒業
1993 UCバークレー校でPh.D.取得(M・ベドナースキー研、糖鎖化学)
1993–95 UCSFで博士研究員(免疫学者S・ローゼン研)。細胞接着と糖鎖を学ぶ
1996 UCバークレー校で独立。代謝的糖鎖工学(アジド糖の細胞取り込み)を開始
1999 マッカーサー・フェロー受賞
2000 シュタウディンガーライゲーションを報告(E・サクソンとの共著、Science
2003 bioorthogonal chemistry(生体直交化学)」という概念・用語を提唱
2004 SPAAC(シクロオクチンによる無銅アジド–アルキン環化付加)を報告
2008 生きたゼブラフィッシュ胚の糖鎖を発生過程でイメージング(Science
2015 スタンフォード大学教授に就任
2020– LYTAC(細胞外タンパク質のリソソーム分解誘導)を報告。糖鎖免疫の創薬展開
2022 シャープレス・メルダルとともにノーベル化学賞受賞

出発点は「糖鎖が見えない」という問題

細胞の表面は、タンパク質や脂質に結合した糖鎖(グリカン)の層=グリコカリックスで覆われている。免疫の認識、感染、がんの転移——細胞と細胞が出会う場面のほとんどに糖鎖が関わっている。ところが糖鎖の研究は、DNAやタンパク質に比べて決定的に不利だった。

理由は単純である。糖鎖は遺伝子に直接コードされていない。DNAやタンパク質なら、GFP(緑色蛍光タンパク質)の遺伝子をつなげば細胞のなかで光らせられる。しかし糖鎖は多数の酵素の働きの結果としてできるため、「蛍光タンパク質を融合する」という王道の手が使えない。

なぜ糖鎖は難しいのか
タンパク質は20種のアミノ酸が一直線につながるだけだが、単糖は水酸基が複数あるためどの位置で・αかβかで分岐でき、組み合わせが爆発する。エミール・フィッシャーウォルター・ハースの時代から、糖の化学が有機化学の難所であり続けてきた理由でもある。

そこでベルトッツィが選んだのが化学者らしい迂回路だった。細胞自身に目印付きの糖を食べさせ、代謝経路を使って細胞表面まで運ばせる——これが代謝的糖鎖工学(metabolic glycoengineering)である。

【代謝的標識のながれ】

  Ac4ManNAz(アジド基を付けたマンノサミン誘導体)
        |  細胞膜を通過(アセチル基が疎水性を稼ぐ)
        |  細胞内エステラーゼで脱アセチル化
        v
  ManNAz  →  シアル酸生合成経路  →  SiaNAz(アジド化シアル酸)
        |
        v
  細胞表面の糖鎖の末端に −N3 が提示される
        |
        v
  外から加えた試薬(ホスフィン/シクロオクチン)と選択的に結合

ここで問題になるのが「では、その−N3何を反応させるのか」である。生きた細胞のなかで使える反応は、次の条件をすべて満たさなければならない。

生体直交反応に求められる条件

条件 なぜ必要か
生体分子と反応しない アミン・チオール・カルボン酸・水酸基が大過剰に存在する。これらと反応したら選択性はゼロ
水中・中性・37 °Cで進む 加熱も強酸・強塩基も使えない。溶媒は水一択
官能基が小さい 大きな目印を付けると、酵素に基質と認識されず代謝経路に乗らない
速度が十分速い 生体内では試薬を高濃度にできない(希薄・低毒性が必須)。二次速度定数が効いてくる
触媒が要らない/無害 重金属触媒は細胞毒性を示す。この一点が後述のCuAAC最大の弱点になる

この条件表を睨みながら、ベルトッツィはアジド(−N3を選んだ。理由は次の通りである。

アジドが「最良の目印」である理由
生体にほぼ存在しない——哺乳類の代謝物にアジド基はない。だから競合が起きない
小さい——原子3つ分。酵素の基質ポケットに入れても認識を妨げにくい
水中で速度論的に安定——熱力学的には高エネルギーだが、水やアミンとは実質反応しない
二役をこなす——親電子的(ホスフィンに攻撃される)にも、1,3-双極子(環化付加する)にもふるまえる
よくある誤解:「アジドは爆発するから生体には使えない」
危険なのはアジ化ナトリウムなどの無機アジドや、炭素数に対して窒素数が多すぎる低分子アジドである(経験則として C/N < 3 の低分子は要注意)。糖やタンパク質に一つだけ導入された有機アジドは、生理条件下では十分に安定に扱える。とはいえアジド試薬の取り扱いは実験室では常に要注意で、金属スパチュラやハロゲン化溶媒(CH2Cl2)との組み合わせは避けるのが鉄則である。

第一の解答:シュタウディンガーライゲーション(2000年)

アジドと確実に反応する古典反応として、ベルトッツィが目を付けたのがシュタウディンガー反応(1919年、ヘルマン・シュタウディンガー)である。ホスフィンがアジドの末端窒素を攻撃し、N2を放出してアザイリド(イミノホスホラン)を与える反応だ。

【古典的シュタウディンガー反応】

  R−N3 + PPh3
      → [R−N=N−N−PPh3]  (ホスファゼチジン中間体)
      → R−N=PPh3 + N2↑   (アザイリド)
      →(H2O)→ R−NH2 + O=PPh3

ところが、これをそのまま生体に持ち込むと困る。アザイリドは水で加水分解されてアミンとホスフィンオキシドに分かれてしまい、目印と試薬がつながらないのだ。せっかく反応しても、結合が残らなければ標識にならない。

そこでベルトッツィとエリック・サクソンが打った手が見事だった。ホスフィンの隣にメチルエステルを置いておくのである。生成したアザイリドの窒素は求核性が高いので、水に捕まる前に分子内でエステルのカルボニルを攻撃する。結果、メタノールが抜けて安定なアミド結合が生まれる。

【シュタウディンガーライゲーション(Saxon & Bertozzi, 2000)】

  Ar2P−C6H4−CO2Me  +  R−N3
        |
        |  (1) P が N3 の末端 N を攻撃、N2 が脱離
        v
  アザイリド  Ar2P(=N−R)−C6H4−CO2Me
        |
        |  (2) 分子内求核アシル置換(5員環遷移状態)−MeOH
        v
  アミド  R−NH−C(=O)−C6H4−P(=O)Ar2   ← 加水分解に耐える共有結合
ここが有機化学の勘どころ
分子内反応は分子間反応より圧倒的に速い(有効モル濃度の効果)」という原則を、そのまま設計に使っている。水は55 mol/Lもあるが、同じ分子の中に置かれたエステルはそれ以上の実効濃度でアザイリドの目の前にある。だから水に負けない。求核アシル置換の基本を押さえていれば、この一手の巧みさが見えてくる。

さらに、リン部分を最終生成物に残さないトレースレス型(traceless Staudinger ligation)も開発され、天然と同じアミド結合だけを残せるようになった。ペプチドライゲーションの手法としても発展している。

しかし、この反応には弱点があった。とにかく遅い(二次速度定数はおよそ10−3 M−1s−1のオーダー)。そしてホスフィンが生体内で酸化されてホスフィンオキシドになってしまう。動物個体に応用するには力不足だった。

第二の解答:SPAAC——ひずみをエネルギーに変える

ちょうど同じ頃、アジド–アルキン環化付加の世界に革命が起きていた。2002年、モーテン・メルダルK・バリー・シャープレスのグループが独立に、Cu(I)触媒によるアジド–アルキン環化付加(CuAAC)を報告したのである。ヒュスゲンの1,3-双極子環化付加は本来100 °C級の加熱が必要で位置選択性も悪かったが、Cu(I)が入ると室温・水中で、1,4-二置換トリアゾールだけが定量的に得られる。これが「クリックケミストリー」の代表反応となった。

ところが、細胞にとってCu(I)は毒である。活性酸素種を発生させて細胞を殺してしまう。生きた細胞・生きた個体には、そのままでは使えない。

ここでベルトッツィが出した答えが「触媒をやめて、基質にエネルギーを持たせる」だった。三重結合を8員環(シクロオクチン)に閉じ込めると、本来180°であるべき sp 炭素の結合角が約160°まで曲げられ、分子はおよそ18 kcal/molの環ひずみを抱え込む。基底状態のエネルギーが最初から高いので、環化付加の活性化障壁が下がる——触媒なしで室温で進むようになるのだ。

【SPAAC:ひずみ促進アジド–アルキン環化付加】

   R−N3  +  シクロオクチン(8員環に閉じ込めた C≡C)
        |
        |  Cu 触媒なし・水中・37 °C
        |  1,3-双極子環化付加(協奏的・[3+2])
        v
   縮環トリアゾール(安定・不可逆)

 エネルギー的な見方:
   直線アルキン    基底状態 低い → ΔG 大 → 加熱が必要
   シクロオクチン  基底状態 高い(ひずみ 約18 kcal/mol)→ ΔG 小 → 室温で進行
バイヤーの環ひずみ理論が創薬に効く
炭素の結合角が理想値からずれるほど分子は不安定になる——アドルフ・フォン・バイヤーが1885年に提唱した環ひずみ理論そのものである。19世紀の「なぜ小員環は不安定か」という問いへの答えが、120年後に「不安定さを反応の駆動力として設計に使う」という形で応用された。基礎理論の射程の長さを示す好例といえる。
よくある誤解:「ひずみがあるとアルキンが勝手に壊れる」
シクロオクチンは熱力学的には高エネルギーだが、速度論的には安定である(アジドと同じ論理)。水にもチオールにも溶液中で単独では速やかに反応しない——だから試薬として使える。ただしグルタチオンなど生体チオールとのチオール–イン副反応は完全にゼロではなく、シクロオクチンの構造によって副反応の度合いが変わる。「ひずみを上げれば上げるほど良い」という単純な話ではなく、反応性と安定性のトレードオフを最適化する必要がある。

シクロオクチンの世代交代

最初のシクロオクチン(OCT)は、速度が遅く溶解性も悪かった。ここから世界中のグループが改良競争を始める。設計指針は明快で、(1)ひずみをさらに増やす(2)アルキンのLUMOを下げるの2点である。

試薬 設計の工夫 対アジド速度定数の目安(M−1s−1
OCT(2004) 最初のシクロオクチン。ひずみのみで活性化 約10−3
DIFO プロパルギル位にフッ素2つ。強い電子求引性でLUMOを低下 約7×10−2
DIBAC / DBCO ベンゼン環2つを縮環させてひずみを増強 約0.3
BCN シクロプロパン縮環。小さく対称で副反応が少ない 約0.1
テトラジン+TCO
(IEDDA)
逆電子要請型Diels–Alder。ひずみアルケンとの組み合わせ 102–106(桁違いに速い)

表の最下段、テトラジンとトランス-シクロオクテン(TCO)による逆電子要請型Diels–Alder反応(IEDDA)は、生体直交反応のなかで最速のクラスである。電子不足のジエン(テトラジン)と電子豊富なジエノフィル(ひずんだアルケン)が反応し、レトロ Diels–Alder でN2を放出して不可逆に進む。通常のDiels–Alderとは HOMO/LUMO の役割が入れ替わっているのがポイントで、フロンティア軌道論の格好の応用例になっている(Diels–Alder反応の記事で軌道の考え方を復習しておくとよい)。

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発展:SPAACの位置選択性はどうなるのか
CuAACが1,4-二置換トリアゾールのみを与えるのに対し、SPAACは金属を使わない協奏的な[3+2]環化付加なので、非対称なシクロオクチンを使うと位置異性体の混合物が生じる。院試で「CuAACとSPAACの違いを述べよ」と問われたら、(1)触媒の有無(2)機構が段階的な金属アセチリド経由か協奏的か(3)位置選択性(4)生体適合性の4点を書けば十分である。なお生体標識の用途では、生じた2種の異性体はいずれも安定な共有結合なので、位置異性体の混在は実用上ほとんど問題にならない。

生きた動物のなかで化学反応を起こす

2008年、ベルトッツィのグループは生きたゼブラフィッシュ胚にアジド糖を与え、蛍光標識シクロオクチンでSPAACを行い、発生の進行にともなって糖鎖がどこに作られていくかを時間を追って可視化してみせた。胚は生きたまま泳ぎ続ける。マウス個体でも同様の標識が成功し、「試験管の外=生体の中で、狙った有機反応を起こす」という段階に化学は到達した。

この技術は、単なるイメージング手法にとどまらず、実用技術として次々に展開されている。

抗体−薬物複合体(ADC)
PET・プレターゲティング
糖鎖免疫・LYTAC

とりわけLYTAC(lysosome-targeting chimera)は発想が鮮やかである。細胞内タンパク質を分解するPROTACに対し、LYTACは細胞外や膜上のタンパク質を狙う。分解したい相手に結合する抗体にマンノース-6-リン酸などの糖リガンドを付けておくと、細胞表面の受容体がそれを見つけて丸ごと取り込み、リソソームで分解してしまう。「糖鎖が細胞の宛名ラベルである」という彼女の一貫した視点が、そのまま創薬モダリティになった例だ。

「クリックケミストリー」と「生体直交化学」は同じではない

2022年のノーベル賞は3人の共同受賞だったため、二つの言葉が混同されやすい。区別しておこう。

観点 クリックケミストリー 生体直交化学
提唱者 シャープレス(2001)/CuAACはメルダル・シャープレス(2002) ベルトッツィ(2003)
目的 高収率・簡便・広範囲に使える信頼できる結合形成 生体の内部で副反応なく進む結合形成
触媒 CuAACはCu(I)必須 無触媒(またはCu非依存)が原則
関係 CuAACはクリックだが生体直交ではない(銅が毒)。SPAACは両方を満たす。生体直交化学はクリックの思想を「生きた細胞」という制約下で拡張したもの

現代への影響

ベルトッツィが変えたのは、化学の適用範囲そのものである。「有機合成はフラスコのなか、生体の中は生物学者の領分」という暗黙の線引きを取り払い、細胞を反応容器として使うことを可能にした。彼女自身が糖鎖生物学者であり合成化学者でもあったからこそ、生物学の問いから化学の設計を逆算できたといえる。

ノーベル財団は2022年の授賞理由をこう記した——「クリックケミストリーと生体直交化学の開発に対して(for the development of click chemistry and bioorthogonal chemistry)」。「難しい分子を作れること」ではなく、「確実につながる反応を、使えない場所で使えるようにしたこと」が評価されたのである。合成の巧緻を競った20世紀の全合成の時代(R・B・ウッドワードらの系譜)とは、価値の軸が明確に変わった瞬間だった。

まとめ

この記事のポイント
・キャロライン・ベルトッツィ(1966–)は生体直交化学(bioorthogonal chemistry)という概念と用語を確立した化学者(2003年提唱)
・出発点は糖鎖は遺伝子コードされず、蛍光タンパク質で標識できないという問題。代謝的糖鎖工学でアジド糖(Ac4ManNAz)を細胞に食べさせ、細胞表面に−N3を提示させた
アジドは「生体に存在しない・小さい・水中で速度論的に安定・親電子的にも1,3-双極子としても働く」ため最良の目印
シュタウディンガーライゲーション(2000)は、アザイリドを分子内エステルで捕まえて安定なアミドにする設計。ただし遅く、ホスフィンが酸化される弱点があった
SPAAC(2004)はCu触媒を捨て、シクロオクチンの環ひずみ(約18 kcal/mol)で基底状態を持ち上げてΔGを下げる戦略。バイヤーの環ひずみ理論の現代的応用
・改良版(DIFO=F2でLUMO低下、DIBAC/DBCO=縮環でひずみ増強、BCN)を経て、さらに速いテトラジン–TCOの逆電子要請型Diels–Alderへ発展
CuAACはクリックだが生体直交ではない/SPAACは両方を満たす——この区別が試験で問われやすい
・応用はADC・PETプレターゲティング・糖鎖免疫チェックポイント・LYTACへ。2022年、シャープレス・メルダルとともにノーベル化学賞受賞
・院試では「なぜ銅が使えないのか」「ひずみがなぜ反応を速めるのか」「シュタウディンガーライゲーションで分子内エステルが必要な理由」を説明できるようにしておくとよい

ベルトッツィの化学がおもしろいのは、使っている反応そのものは1919年のシュタウディンガー反応と、1960年代のヒュスゲン環化付加という「古い反応」だという点にある。新反応を発明したのではなく、「どんな場所で使いたいか」という制約から反応を選び直し、設計し直したのだ。1,3-双極子環化付加の軌道相互作用はDiels–Alder反応の考え方がそのまま効くので、まずはそちらでHOMO/LUMOの読み方を固めてから戻ってくると、この分野の見通しが一気によくなる。ほかの化学者の歩みは有機化学者列伝まとめから確認できる。

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