実験室で使うジエチルエーテルやテトラヒドロフラン(THF)のボトルに、「BHT入り」と書かれているのを見かけたことはありませんか?
BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)は、一見地味ながら、化学実験においてとても重要な役割を果たしている化合物です。
特にエーテル系溶媒は空気中の酸素と反応して過酸化物を生成しやすく、これが爆発のリスクにつながることがあります。
この危険な自動酸化を防ぐために、ラジカルを安定化するBHTが保存剤として加えられているのです。
本記事では、BHTの化学構造や性質、保存剤としての役割、安全な溶媒管理の観点からの重要性について解説します。
溶媒のラベルに書かれた成分を「単なる添加物」として見過ごすのではなく、その化学的意味を理解して安全な実験を行う力を身につけましょう。
BHTとは?基本情報と構造
BHT(ジブチルヒドロキシトルエン、Butylated HydroxyToluene)は、構造式で表すと以下のようなフェノール誘導体です。
化学式: C15H24O
IUPAC名: 2,6-di-tert-butyl-4-methylphenol
フェノールのベンゼン環に、2つのtert-ブチル基と1つのメチル基が置換しているため、酸化に対して非常に安定な構造を持っています。
BHTの主な用途
BHTは食品添加物や化粧品に使われる酸化防止剤としても知られていますが、有機化学では溶媒の自動酸化防止剤として特に重要な役割を果たします。
エーテル系溶媒の保存とBHT
エーテル(例:ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)など)は、空気中の酸素と反応して過酸化物(ROOR’)を生成しやすい性質があります。これを自動酸化と呼びます。
過酸化物は時間とともに蓄積し、加熱・蒸留時に爆発的に分解する可能性があるため、溶媒の管理には細心の注意が必要です。
このリスクを抑えるために、BHTが微量添加されたエーテル系溶媒が市販されています。BHTはラジカル捕捉剤として働き、酸化反応の連鎖を断ち切ることで、過酸化物の生成を抑制します。
学生実験や研究室での注意点
- 購入したエーテル系溶媒には、通常BHTが添加されています(ラベルに記載あり)。
- 逆に「無添加」のエーテルは、精密反応や触媒反応に使われることが多く、保存期間が短く、開封後の使用には注意が必要です。
- 過酸化物の検出にはKI紙(ヨウ化カリウム)や過酸化物試験紙を使うと便利です。
おわりに
BHTは地味ながら、エーテル系溶媒の安全な取り扱いを支える非常に重要な添加剤です。化学実験でよく使われる溶媒に含まれている保存剤にも目を向けることで、安全性や溶媒選択の観点から一歩進んだ理解が得られます。