イットリウムは、化学的には遷移金属としての性質を持ち、工業および技術分野での用途が多岐にわたります。特に蛍光体、超伝導材料、セラミックス、レーザー材料としての利用が注目されており、その特性を活かした新しい応用が今後も期待されています。
基本情報
和名 | イットリウム |
---|---|
英名 | Yttrium |
語源 | スウェーデンのイッテルビー村 (Ytterby) |
元素記号 | Y |
原子番号 | 39 |
原子量 | 88.91 |
常温(25℃)での状態 | 固体(金属) |
色 | 灰白色 |
密度 | 4.469 g/cm3(20℃) |
融点 | 1522℃ |
沸点 | 3338℃ |
発見者 | モサンダー(スウェーデン)[1843年] |
含有鉱物 | ゼノタイム |
歴史
発見
イットリウムは1794年、フィンランドの化学者ヨハン・ガドリンによって発見されました。
名前の由来
ガドリンは、スウェーデンのイッテルビー村から採取された鉱石中に新しい元素を発見し、この場所にちなんで「イットリウム」と名付けました。
主な用途
イットリウムは多様な産業分野で利用されています。
蛍光体
イットリウムは蛍光体の材料として広く使用されています。特に、赤色蛍光体(YVO4)として、カラーテレビや液晶ディスプレイのバックライトに利用されています。
超伝導材料
イットリウムバリウム銅酸化物(YBCO)は、高温超伝導体の一つであり、電力ケーブルやマグネットの応用が進んでいます。
セラミックス
イットリウム酸化物(Y2O3)は、高温耐火材料としてセラミックスの分野で使用されます。特に、ジルコニアの安定化剤として重要です。
レーザー材料
イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)は、固体レーザーのホスト材料として利用されます。Ndレーザーは、材料加工や医療用レーザーとして広く使用されています。
金属合金
イットリウムを添加することで、特定の合金の強度や耐久性を向上させることができます。特に、マグネシウム合金の強化に使用されます。
生成方法
更新をお待ちください。
化合物
主な特徴
- 銀白色の金属で、非常に光沢がある
- 硬くて重く、引っ張り強度が高い金属
- 空気中では比較的安定していますが、高温では酸化されやすくなる
- 化学的に比較的反応しにくいですが、酸やハロゲンと反応する
- 通常、+3の酸化状態をとる
研究事例
イットリウム系高温超電導体
研究テーマ
高温超電導体としてのイットリウムバリウム銅酸化物(YBCO)の開発
背景
1987年、イットリウム、バリウム、銅、酸素を含むセラミック化合物(化学式:YBa₂Cu₃O₇-δ)が、液体窒素の沸点(-196℃または77K)以上の温度で超伝導を示すことを発見したとき、科学者たちは画期的な進歩を遂げた。これまでは、はるかに高価な液体ヘリウムによる冷却が必要な物質に頼っていた超電導の分野にとって、これは大きな進歩であった。
なぜイットリウムなのか?
イットリウムのイオン半径はランタンなどの希土類元素のイオン半径に似ているが、電子的性質がわずかに異なるため、超伝導体の結晶構造を安定させることができる。
YBCOの超伝導に不可欠なペロブスカイト構造の形成に役立っている。
研究のインパクト
この発見は、以下のような実用化への道を開いた:
- 磁石を改良したMRI装置
- エネルギー損失がほぼゼロの送電線
- 磁気浮上列車
また、酸化物系超電導体の開発に大きな関心と資金を呼び起こした。
Wu, M. K. et al., “Superconductivity at 93 K in a New Mixed-Phase Y-Ba-Cu-O Compound System at Ambient Pressure”, Phys. Rev. Lett., 1987, 58, 908-910. DOI: 10.1103/PhysRevLett.58.908
医療イメージングと癌治療
放射性同位元素であるイットリウム-90 は、肝臓がんを治療するための放射線治療(例:放射性塞栓療法)に使用されている。
また、生体適合性が高いため、セラミック・インプラントや歯科用途にも使用されている。
ディスプレイ用蛍光体
イットリウム化合物(例えば、YVO4:Eu3+)は、CRTやLEDディスプレイ用の赤色蛍光体に使用されている。
合金とセラミックス
イットリウムは、アルミニウムやマグネシウム合金に添加され、強度と耐高温性を向上させる。
燃料電池や遮熱コーティングに使用される高性能セラミック、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)に使用される。
筆者の薦める1冊
元素に関する問題がレベル別に多く掲載されており、一般的な知識からニッチな知識まで幅広く学べます。また、最後には全元素のデータが載っており、わからないことがあればすぐに調べることができます。
これを読めば、元素マスターに一歩も二歩も近づけます!
この本の一番の魅力は、とても美しい画像とともに学べるということです。
「こんなに美しい元素があったんだ、、!」という新しい発見がたくさんあると思います。
理系に限らず、文系にもおすすめの一冊です。
実は鉱石好きだった宮沢賢治。
教科書にも作品を残す彼の科学者としての一面に注目した一冊です。